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清掃工場の排ガスから「アスベスト」 ~災害廃棄物処理の再検証を~

 世田谷清掃工場の排ガス中から、アスベストが検出されました。

     ➠23区清掃一部事務組合「排ガス中のアスベスト測定結果について」

 十分に留意すべき情報である。それが、私の第一印象です。一組自身が「これまで実施してきた排ガス測定において初めてアスベストを検出した」と認めているのですから、なおさらです。

 アスベストは、高い発がん性を有し、かつそのリスクに閾値はないと言われています。発症まで数十年かかる場合もあることから“静かな時限爆弾”と恐れられても来ました。しかし、わが国では、これまで世界に類のないほど大量にアスベストが使用されてきました。その多くは建材です。1970年代から吹き付けアスベストについては一定の規制が入りましたが、含有率5%未満のものはその後も長く、かつ大量に使用され続けました。吹き付け以外のアスベスト含有建材に至っては、使用が全面的に禁止されたのはようやく2011年になってからです。日本中の建物に、アスベストはいまだに大量に残されたままです。
 ただし、23区の清掃工場は家庭系の一般廃棄物を処理することを本来の役割としており、原則として、建材あるいは建築廃材を受け入れては来ませんでした。ですから、アスベストがこれまで一度も検出されなかったとしても、そのこと自体は不思議ではありません。
 では、今回、なぜアスベストが出たのか。それは、宮城県からの災害廃棄物の受け入れと関連していると見るべきでしょう。世田谷工場は、6月11日と18日の週に計120トンほどの災害廃棄物を受け入れています。そして、アスベストが検出されたのは18日と20日です。災害廃棄物に少なくない量のアスベストが混入していたと見るのが自然です。

 今回の事態について、一組はこう書いています。

 「清掃工場に対するアスベストの基準値はありませんが、アスベストを取り扱う施設の敷地境界における基準値は1リットルあたり10本であり、今回の測定結果はこれと比較して小さい値です。さらに、清掃工場の排ガスは煙突から排出されたのち10万倍以上に拡散されることから、周辺環境への影響はありません。」

 検証すべきこと、解決すべき課題をきちんと指摘も確認もせず、とにかく“安全”宣言を出そうとするこの体質は何と言うべきか…。だいたい「10本/リットル」という敷地境界基準は、アスベスト製造事業所に適用される基準であり、本来、アスベストを取り扱うはずのない清掃工場に当てはめるべきものでは全くありません。しかも、この基準は1980年代、ようやく本格的な規制が始まったばかりの時期のものでしかないのです。こんな基準を持ち出して比較の対象とする神経が、私には理解できません。ちなみに、現在、解体工事等に伴うアスベストの飛散防止に用いなければならないとされているHEPAフィルターは、「空気中又は排気中に含まれる粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率の性能を有するもの」とされています。こうした技術基準が今ではアスベストの管理の基準なのですが、例えばこれに照らして、今回の数値はどうなのでしょう? もちろん、今回の検出値からアスベスト曝露のリスクをどの程度と見るかについては冷静な評価が必要でしょうが、それにしても、一組の“安全”宣言は安易です。

 しかも、問題はアスベストが出たという事実そのことです。

 都も一組も、そして各区も「災害廃棄物を搬出するにあたり、被災地では、ふるい選別機や破砕機に掛けた後、手作業により不燃物やアスベスト等の有害物質の除去を行います」と繰り返し語り、被災地での選別・分別でアスベスト含有建材も取り除いてきたと説明してきました。まず、この説明が大きく揺らいでいます。
 そしてもう一つ、いったい電気集塵機やバグフィルターでアスベスト繊維が捕捉できなかったのはなぜかということも、私には大変重要な問題であると思われます。「工学的に解綿できる最も細い繊維束の大きさは約 1∼2μm」(環境省)とされています。焼却された場合に、この「工学的な解綿」とはちがった変化が生ずるのかどうかわかりませんが、バグフィルターはこの程度の大きさのものを容易に通過させてしまうのでしょうか。もしそうだとしたら、ごく微小と言われるセシウムのような物質を99%以上補足するという説明は、本当に根拠のあるものなのでしょうか。

 世田谷清掃工場の排ガスからアスベストが検出されたことは、災害廃棄物の受け入れ処理において約束されてきた安全管理の洗い直し、再検証を迫るものである。私は、そう考えます。

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