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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

清掃工場とアスベスト(その1)

 今、練馬区は「アスベスト対策」の先進自治体として評価されています。2004年、全国的にも最も早い時期に「アスベスト対策大綱」を制定し、2006年には国の規制を補完・拡充する形で独自の「アスベスト飛散防止条例」を制定しました。

     ➠練馬区におけるアスベスト対策はこちらから

 こうした対策をとるきっかけとなったのは、2002年ごろから表面化した区立小中学校での吹き付けアスベスト問題でした。練馬区の学校には、もっともリスクが高いと言われる吹き付けアスベストが大量に、しかもほとんどが普通教室に残されていたのです。この問題には、最初に残存アスベストの問題を明るみに出すところから始まって、私は深くかかわってきました。当初は、区も区議会の多くの会派も大変腰が重かったのですが、保護者や区民、そして様々な専門家、マスコミの動きが共鳴しあう中で2003年の9月議会を境に空気は劇的に転換します。教育委員会の所管と時に厳しく議論し、また時に協力もしながらひとつずつ対策を進めて来た経験は、今でも大きな財産となっています。

①2003年9月25日の区議会本会議一般質問で、アスベスト対策について取り上げました。私が議員になって初めての一般質問です。➠練馬区議会公式HPの会議録検索のページでご覧ください
②練馬区のアスベスト対策を巡る動きについては、中皮腫・じん肺・アスベストセンター、世界アスベスト東京会議組織委員会などが共催したシンポジウムでの私の報告がネット上でご覧になれます。➠同センターの公式ホームページの、こちらから


 世田谷清掃工場に続いて光が丘清掃工場の排ガスからも、アスベストが検出されました。この問題は、清掃工場における環境確保のあり方、アスベスト規制の法令順守、被災地がれきの広域処理の是非など、深刻な問題をはらんでいますが、まず、アスベストのリスクをどう見るかについて少し整理をしておきたいと思います。
 今回、清掃工場の排ガスから検出されたアスベストは、1リットルあたり1本以下のようです。全体でどの程度のアスベストが放出されたのか、またアスベストの種類は何かが公表されていませんから、いくらかでも正確にリスクを検証することは困難ですが、この数値自体は、たとえば都が公表している現在の一般大気環境中のアスベスト濃度にくらべてかなり高い値であることは確実です。

    ➠東京都環境局 アスベストQ&A基本的知識(こちら)のQ5参照

 かつてはブレーキにも多用されていたアスベストです。職域だけでなく一般環境中にもたくさんのアスベストが飛散していた時代があり、20年ほど前までは一般大気中からも1リットルあたり数本というアスベストが検出されたこともありました。しかし、その値はアスベスト規制の広がりとともにどんどん低下し、最近は不検出が続いています。こうした状況からすれば、住宅地の真ん中で少なくない量のアスベストを大気中に放出してしまったことは重大であると言わざるを得ません。
 アスベストの健康リスクについては、放射性物質同様、閾値のない発がんリスクが確率的影響として存在すると言われています。上記のアスベストセンターHpの「石綿Q&A」にもありますが、アスベストは基本的に呼吸を通して肺内に入り、そして主として肺とその周辺を侵します。成人は5リットル/分の大気を吸入すると言われており、たとえば、光が丘清掃工場での測定結果並みに大気に0.3本/リットルのアスベストが含まれていたとしたら、1年間では0.3本/分・リットル×5リットル×60分×24時間×365日=788,400本を吸い込んでしまうことになります。ちょっとぎょっとする数字です。このレベルの吸引でもがんが発生する確率は決して高くないとも言われていますし、清掃工場からの飛散が一時的で、かつ一組が言うように大きく拡散されるものだとすれば、そのリスクは限定的なものだろうと思われますが、しかしそれは、リスクを回避する努力と責任を免罪するものではありません。

 放射性物質がそうであるように、ごく低濃度の曝露については、アスベストも過度に恐れず、しかしリスクは軽視しないという対応が必要です。今回の清掃工場からのアスベスト飛散は、確実に地域環境中のリスクを高めました。何より問題なのは、それが回避されるべき、いや回避を約束されていたはずのリスクだということです。一組は、安易な「安全」宣言を急ぐ前に、まずこの事実の深刻さをしっかりと受け止め、共有すべきです。(続く)

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