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“アベノミクス”のこと

新年ですから、とかく景気の良い話が聞こえてきます。ある知人の話です。

投資信託に手を出したのは、2008年の春だったかなぁ…。手元に少しばかり貯金がたまったんだけど、とにかく利子がつかない。利率がほとんど0だから当然だけど寂しいもので、普通預金口座を開いている銀行から投資の勧誘を何度か受けたこともあって、やってみるかと。400万はなかった。たぶん380万円くらいが元本だったと思う。そしたら、直後の9月のリーマンショック。株が暴落し、投資残高は元本をどんどん割り込んでいく。正直、青くなったね。銀行の人からは「投資信託は長く残して分配金を得ていくのが大事ですから」と慰められたけど、こんなことになってもだれも責任は取らないからね。残高は、一時は240万を切った時もあった。4割近くも“資産”が消えてしまって、なんだか投資の世界のリアルな厳しさに触れたような気もしたよ。ところが、流れが変わったのは安倍サンが首相になってから。株価が戻すのと歩調を合わせるように投信残高の時価評価額もぐんぐん回復し、とうとう今は360万を超えた。ほとんど元本を取り戻した気分だよ。分配金は預金利子よりずっといいし、“アベノミクス”様様だね…

ここ2年ほどの日本経済のトレンド、いわゆる“アベノミクス”が呼び起こした「好景気」の実態は、こんなものなのでしょう。活況を呈しているのは株式市場。膨らんでいるのは金融資産。そして、潤っているのは「投資家」。
例えば、昨年末、こんなニュースが流れていました。
「野村総合研究所は18日、2013年の純金融資産保有額別世帯数と資産規模の推計結果を発表した。それによると、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満の「富裕層」および同5億円以上の「超富裕層」の世帯数は計100.7万世帯となり、2000年以降のピークである2007年を10.4万世帯上回った。」

     ➡「アベノミクスで恩恵を受けたのは…”富裕層”と”超富裕層”が100万世帯超える」
     ➡野村総研のプレス発表は こちら

“アベノミクス”による景気回復の実態と政権の政治基盤のありようが、とてもよくわかる数字です。
新年度の税制改正や予算編成の方向が報じられ、安倍政権の経済・財政政策の骨格が見えてきました。よりあけすけに、よりピッチを上げて進みつつあるのは企業家利得、個人資産の増加と「活用」…一言でいえば、“資産家経済”“配当生活者国家”への転換です。
現代では、「資産家」は決して「実業家」ではありません。「資産」利益を守ることと、現実経済を調整し活発にすることは、決して同一ではありません。資産家を潤し、一握りの「富裕層」を膨らませても、経済自体がかつての高度成長の時代のように生命力を取り戻し、生産の拡大=資本の蓄積が進んていくことはないでしょう。市場の拡大と競争が生産力の拡大を促し、生産の増強のための投資が利益を呼び、利益がまた投資につながる。そんな時代は、もう過去のものです。“アベノミクス”による株高も、結局は有り余る通貨と低金利が生み出したバブルのようなものであり、きっといつかどこかで、弾けてしまいそう。きっかけはたとえば深刻なインフレか、あるいはもしかしたら戦争か…。世界も、私たち日本人も、いつか経験してきた道です。
利益の確保を動機とし、生産力の拡大を歴史的な使命とした資本主義の経済がいくらかでも順調にいき、国民全体に利益を及ぼしているように見えた時代は終わりました。行き詰ってしまった経済の基本をそのままに“資産バブル”を追い求めるこの国の姿は、退廃と衰退への道を歩んでいると思えてなりません。 年の初め、少し背伸びして大きな絵を描いてみました…。

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